この冬も、その終焉に向かいつつも、最後のあがきか寒さが最高潮に達しており。
真昼の都内で、しかもしかも
アスファルトにうっすらと積もるような雪も降ったほどだったし。
まだ油断してちゃあいけない、
昨年は立春も既に過ぎてた
聖バレンタインデーが地獄のような豪雪に見舞われたのだから、
今年は違うと果たして誰が言えるだろうか。
「そんな、スリルとサスペンスっぽく言われても。」
豪雪や吹雪を、甘く見たり馬鹿にする気はさらさらないけれど。
それでも、気がつけば少しずつだが朝の訪のいも早くなり、
ほんのちょっと前の 年の瀬あたりだと、六時となってもまだ暗かったものが、
今は結構早い頃合いから白々と明け始めてもいる。
風が冷たいのは どもならないが、
それでも 陽が照る中に身を置くと、背中がほのかに温もるのを感じられもする。
水仙も咲いているし、静岡では河津桜も咲いたというし。
「…そういう年寄り臭いものを例に挙げるところが、
子供らしくはねぇと気がつかんのか、お前は……って、
痛ってぇな、毎度毎度。」
こきおろしとも言えないほどのお言葉を返した途端、
それは的確にふくらはぎを蹴飛ばされ、
賊大フリルリザードの主将様が
それでなくとも恐持てなお顔の中、
鋭く吊り上がった三白眼を険しく眇めたものの。
それこそ今更のことなので、
蹴った犯人で 供連れでもあるおチビちゃんは、
相変わらずに涼しいお顔のままでおり。
「何だよ。
河津桜の話したら、
じゃあ観に行くかってバイクで連れてってくれたのはどこのどいつか、
もしかして覚えてねぇのか?」
「う……☆」
丁度の間合いに ひゅんっと強めの風が吹いたからか、
撫でつけた黒髪がやや跳ねたほどのそれに襲われて
それで顔をしかめたように見えなくもなかったけれど。
『いやいや、
あれは痛いところを突かれたからじゃね?』
『うんうん。』
『俺もそう思う。』
お仲間でチームメイトでもある顔触れが此処にいたなら、
そんな言いようをこそこそと囁き合ったかも知れぬ。
そのっくらいに、もはや周辺にはお馴染みとなっている、
ちょっぴり困った、でも微笑ましい相性の彼らなのであり。
「で? 今日は練習に付き合えそうなのか?」
「う〜ん、それなんだがなぁ。」
何とか頑張っての予行演習では、
七つの福を巻き取った恵方巻きも上手に作れたし、
レシピもプリントアウトして、仕込み担当のメグさんにメールも打った。
なので、そっちの支度は万全ではあるのだが、
「今日は総仕上げで、
そりゃあ大量の大豆を炒るんだよな。」
「ほほぉ…。」
毎年のように乾物屋さんに予約を入れているがため、
『どっかのお寺か神社の氏子さんだったっけね。』
『いやぁ、ごくごく普通のお宅のはずだが。』
そんな風に怪訝がられているのも恒例のこと。
お母さんの炊事が終わってキッチンが空いたところへ割り込む格好で、
そりゃあでっかい両手タイプの中華鍋で、
よいせよいせとあおりを入れつつ、カリッカリに炒ってから、
粗熱を取ったら、特製のマガジンに詰めなきゃならぬ。
「…今年も やんのか、アレ。」
「ったり前じゃんか♪」
自分の倍は上背がありそな屈強な大学生ボウラーたちが、
ほぼこぞって悲鳴を上げるだろう途轍もない特訓を強いる
人呼んで“鬼軍曹”様とは思えぬほどに。
風にあおられる金髪が縁取る、幼い造作の相好を甘やかにほころばせ、
それはそれは清々しいお顔して微笑った、子ヒル魔くんだったそうで。
「……まあ、お手柔らかに頼むな。」
「おうよ♪」
ああ今年も春が来たなぁと、
色んなお人がいろんな方向で感じ入る、
そんな頃合いと相成ったようでございますvv
〜Fine〜 15.02.02.
*何ででしょうか、
こちらのシリーズの場合はこれを忘れちゃいけないと、
ついつい書いてしまう“節分エピソード”ですが。
今年もマシンガンをかついでグラウンドへ現れる鬼軍曹だそうで、
でもまあ、特別な練習が済めば、
女子マネ特製のおいしい恵方巻きが待っているので、
部員の皆様には、頑張って受けてたってほしいものです。
めーるふぉーむvv
or *

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